インド古典舞踊サークル

インド・ニューデリーとグルガオンで活動している、バラタナティヤムとカタックのサークルです。

Patra Parchiya - Soorpanakha

ハビタットセンターで行われたダクシナの舞台を見に行ってきました。

インドの2大叙事詩「マハーバーラタ」と「ラーマーヤナ」から、4人の登場人物を4人のダンサーが表現するという特別企画Patra Parichayaの二日目。ダクシナは、「ラーマーヤナ」から、敵ラーヴァナの妹「スールパナカ(Soorpanakha)」を踊りました。

通常の「ラーマーヤナ」によれば、森の中でラーマ王子に横恋慕した悪女スールパナカが、断られた腹いせに兄ラーヴァナに仇討ちをそそのかすことから、最後、ラーマ王子vsラーヴァナの大決戦になります。

ところが、今日のお話では、実はこれらは全てスールパナカが仕組んだ兄殺しだった、という解釈!

実は、スールパナカには相思相愛の夫がいて、彼はラーヴァナの部下だった。しかしあまりに優秀だったため、その能力をおそれたラーヴァナによって殺されてしまった。仲良しで信頼していた兄に、最愛の夫を殺されたスールパナカは、怒りと悲しみのため悪魔になり、国を飛び出した。そのとき見かけたのがラーマ王子で、彼なら兄を倒せる、夫の敵を討てると、策略を練った…というもの…ゾゾゾ

踊りは、森の中でラーマ王子を見つけたスールパナカから始まりました。

退廃的な様子でブラブラ歩いていると、どこからか芳香が漂ってきて、その先にいたのがラーマ王子。きっと強いに違いない、使える、と作戦をひらめくスールパナカ。

バラタナティヤムでは通常三つ編みにする髪をわざとひとつに束ねただけで背中におろし、手のひらと足の裏を真っ赤に塗って演じるダクシナ。どこかおどろおどろしい姿です。

ラーマ王子をどうやって兄と戦わせよう…となりにいるのは美姫シータ、相思相愛のふたりを裂けばいいか、と思いつく。

美しいといえば、スールパナカだってかつては美しかったのです。産まれたときの名前はミナクシ、魚のように美しい目(要するに杏仁形)をした乙女の意。兄と仲良く遊んだ思い出がよみがえってきます。

ここで、兄の額に祝福の色粉を付けるくだりがあり、頭が10個あるラーヴァンの全ての顔にチョンチョンしてから、両手を広げて10全部付けたわよね?と確認する仕草がかわいかったです。

それから、ドゥシュタブッディというラーヴァナの部下と結婚するスールパナカ。恥じらいと、ときめきと、これはもうダクシナ得意の表現。これらがかわいく可憐であればあるほど、あとあと空恐ろしい展開になるという…

相思相愛で仲むつまじい夫婦になったふたり。なのにある日、彼女の元に悲報が届きます。夫が兄に殺されたと。信頼していた兄が、最愛の夫を殺したと。

スールパナカは亡骸にすがって泣き、兄を糾弾します。そして怒りと悲しみに打ち震えるうちに、体内から邪気がわき上がってきて、爪が長く伸び…スールパナカ(長く鋭い爪の意)になります。

すっかり変わり果てた姿で国を飛び出し、森をさまよっているところ、ラーマ王子を見いだしたというわけです。

さて、兄に訴えるには、なにか傷つけられた証を見せねばならない。スールパナカは、ラーマ王子にしつこく言い寄り、押し倒され、次に斬りつけられ、しまいに弓を射かけられます。ニヤリとして弓を抜き、兄のもとへ帰るスールパナカ。森で、私にこんな仕打ちをした男がいる、とキズを見せます。

尊大な態度で話を聞くラーヴァナ。それが、美姫シータの話を聞かされた途端、表情が変わります。そんな美しい姫なら手元に欲しい、それが妹の復讐になるなら行って彼女を奪ってこよう、という話に。

当然、シータを奪われたラーマ王子は、取り返しに来るだろう、兄と戦いになるだろう…

スールパナカは必死で兄に訴え、哀れを誘う目付きで懇願…しつつ、ベールの影でしたり顔…ベールをめくると懇願…ベールをかけるとニヤリ…ここ、さりげないうごきで後ずさりつつ、右腕ひとつでベールの動きをしつつ、スールパナカの打算を表現するダクシナ…ゾゾゾッとくるシーンでした。

かくして、兄はラーマ王子を探しに行き、ラーマ王子に殺される…そう、殺された私の夫とともに葬られるのよ…これがいいわ、こうしよう、まずはラーマ王子に近づいて、全てはこれからよ…と森の中、ラーマ王子へ向かって、不敵なまなざしで歩み去るスールパナカで、幕…

全ては森の中での回顧と妄想、ここからのお話は、みなさんラーマーヤナでご存知ですね、という、全身鳥肌が立つような幕切れでした。

振り付けは、ダクシナ本人、ラーマ先生監修。実は3ヶ月前に題材を与えられ、自分でリサーチを行い、舞台を組み立て、演じたという今日の演目*。ダクシナは「ほかのみんなは良い人なのに、私だけ悪人なの」なんて話してましたが、ちゃんと筋の通った物語で、感情があふれていて、決して悪い人ではなかったダクシナ版スールパナカ。お見事でした。


今回は、伴奏が生演奏。ラーマ先生がNattuvangamという小さな鐘を打ち合わせながらダンスのリズムを導入する伴奏で参加していました。

*=Hindustan Times "What was Soorpanakha thinking?" http://m.livemint.com/Leisure/7WHfqWwBIYabGjwFGud7FN/What-was-Soorpanakha-thinking.html

by SS